山下財宝

フィリピンには、「山下財宝」という伝説がある。

昨日、近所のおっちゃん達と庭で飲んでいたときのこと、一人のおっちゃんが「ところで、山下財宝はいったいどこにあるんだ?」と聞いてきた。

「山下財宝」とは、日本で言う「徳川埋葬金」のような、一種の伝説である。山下財宝の物語は、太平洋戦争末期のフィリピン方面軍総司令官であった山下泰文が、軍資金としての巨額の財貨を埋蔵し、それが現在に至るまでフィリピンの「どこか」に残されているという推測に基づいている。

山下財宝にまつわる話はいろいろある。日本のODA援助による下水道整備事業でもあろうものなら、多くのフィリピン人が半ば冗談めかして、日本の本当の目的は埋もれた財宝の回収であると言う。また、かのフィリピン元大統領、フェルディナンド・マルコス氏が、不正蓄財疑惑に対する答弁で、彼が裕福になった理由は、国庫の横領によるものではなく、山下財宝を発掘したからだと述べたことも有名である。

いずれにせよ、戦後50年以上も経つ現在に至るまで、フィリピン人の心には「山下財宝」に対する野望が半ば冗談、半ば本気で受け継がれている。お年を召したフィリピン人の中には、「山下財宝の発掘は、日本の戦後賠償のささやかなる埋め合わせだ」という人もいる。今でも心の奥深くに、戦後の傷跡が残っている証拠だろう。戦後生まれの自分としては、答えに窮する場面である。一見笑い話のように始まる山下財宝の伝説も、話が深まるにつれ、戦時中の日本の行為へと話題が移行していく。フィリピン人の日本に対する思いは、まだまだ明るいものばかりではない。

写真:山下財宝を掘り当てようと、意気盛んなフィリピンのおっちゃん達。

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