ジャーナリストの本質

4022608137職業としてのジャーナリスト
本多 勝一
朝日新聞社 1984
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いつも思うのだが、本多勝一の著作には「屁理屈」が多い。屁理屈の申し子を自称する私が太鼓判を押すほどなので、間違いはない。今回彼の著作を久々に読んでみて、大学時代の研究室の恩師を思い出した。

元大手新聞社の論説委員だった私の恩師は、生粋のジャーナリストである。私が学生時代のある日、軽い調子で「新聞メディアなんて近い将来無くなるでしょうね」と言ったが最後、無知な私に対して怒涛の反論を浴びせかけ、「ふむ、何も言えまい」という顔をしたのだ。

当時の私は確かに無知であり、漠然としたインターネットの可能性を根拠に新聞メディアの滅亡論を展開したものだから、ベテランジャーナリストである恩師にことごとく論破されてしまったのだ。恩師の理論は屁理屈とまでは言わないが、なんだか魚の骨が喉につかえたような感覚を覚えたまま白旗を挙げざるを得なかったという状況だったので、悔しい覚えをした記憶がある。

コンピュータ業界にしばらく身を置き、インターネットが既存メディアをかき乱していく過程を肌で感じてきた今ならば、恩師に対しても少しは反論できるかもしれないが、残念なことに彼は今アメリカにいる。(という自分もフィリピンにいるので、ご対面は不可能なのだが。。。)

しかし思うに、ジャーナリストの本質とは、一般市民が普段気にも留めない、もしくは留めたとしてもさらりと受け流してしまうような些細な事象について、執拗なまでに食いつき、掘り下げ、裏を取り、そしてばっさりと切るところにある。

本書の中でも、著者がNHKの受信料を断固として支払わない理由についてくどくどと記述しているが、彼が偉いのは、NHKの視聴者センターにわざわざ電話をかけて、受信料を払わない理由について述べた上で、NHKに対する不満をきちんと表明しているところにある。

昨今の若者には、ただお金が無いとか、払わなくても済むものは払わないといった安易な考えで、NHKの受信料支払いを拒否するものが多い。また逆に、何の疑問も持たずに受信料をホイホイ支払っている若者も沢山いる。

しかし、自らをジャーナリストと呼ぶ人達は、たとえ屁理屈と言われようとも「おかしいものはおかしい」として、食い下がっていくだけの信念を持っている。受信料問題にしても、普段はおかしいと思いながらもしぶしぶ受信料を払っている一般市民の代弁者となり、NHKそして世論に対して問題提起を行ってくれているのだ。

そう考えると、ジャーナリストが持つ「屁理屈」だらけの性格も、世の中に対しては多いに役立っているわけで、一般市民に変わって公権力に立ち向かうという、いわゆる「第四の権力」の実行者として、この世になくてはならない存在であることは確かなのだ。

しかし、これ以上彼の著作を読み漁ると、自分の屁理屈魂に拍車がかかりそうなので、この辺で止めておこう。(笑