The Long Tail

今年はじめ頃から、Long Tailというマーケティング用語を聞く機会が増えてきた。

今更ながら、メモ書き程度にまとめておこう。Long Tailとは簡単に言えば、ニッチ市場が多数存在すれば、それは少数のマス市場を脅かす存在になりうるという考え方である。

この概念を提唱したのは、米WiredのChris Anderson。彼の「The Long Tail 」という記事に、この概念について詳しく書かれている。

かつては、オリコンチャートやツタヤのレンタルトップテンなどが消費動向を左右していたが、インターネットの出現によって購買構造が変化してきた今では、重箱の隅をつつくような商品までもが、ベストセラーや大ヒット商品と肩を並べるほどのマーケットシェアを持つ可能性が出てきた。

マーケティングの分野では、パレートの法則というものがある。「全商品のうち、わずか20%の商品が、売上の80%を作り出す」という法則だ。つまり全商品のうち、売れるのは20%程度で、残りの80%は売れないということ。これは裏を返せば、全体の売上の80%は、売れた20%の製品が稼ぎ出しているということになる。

しかし、インターネット社会においては、このパレートの法則が成り立たなくなってきている。検索エンジンの精度向上、Blog・SNSRSSアフェリエイトなどのキーワードで語られるCGM(Consumer Generation Media)が浸透してきたことで、誰でも情報発信をすることが可能となった(細かく言えば、一次情報に個人のコメントを付加した二次情報の発信が増えてきた)。このことはつまり、情報の裾野が広がり、個の価値観が分散していくことで、かつてのマス・マーケティングの理論が通用しなくなってきていることを意味する。

しかし、梅田望夫さんも指摘するように、ニッチ市場がマス市場に置いて代わるという話ではない。

ロングテール論は、ミクロに見たときに「マスからニッチ」へのシフトが起こるというような話ではない。マクロに見たときに、「マスの集積」よりも「ニッチの集積」のほうが市場が大きく、ネット事業ではリアル世界とのコスト構造の違いから、その「ニッチの集積」を効率よく追求可能になった、ということを論じているものだ。マクロに「ニッチを集積する」ことはネットなしにはできなかったし、大組織のコスト構造では相変わらず「ニッチを集積する」ことは収益性という観点からできない。ミクロに見たときにニッチがマスと同等の価値を持つ(そういうケースも稀にはあるかもしれない)とか、ニッチがマスになれる(そういうケースも稀にはあるかもしれない)とか、そういう議論ではない。

インターネット上でニッチ市場が台頭できるようになったのは、先にも挙げたCGMの浸透や、デジタルコンテンツのように在庫が必要無い商品の出現などが要因となっている。インターネット上では、消費者の趣向はメインストリームから分散していく傾向にあるかもしれないが、テレビ・ラジオ・雑誌などの既存メディアの存在もいまだ大きな影響力を持っているため、全ての市場がニッチへと変化すると考えるのは、時期尚早ということだ。


渡辺聡・情報化社会の航海図 Long Tail:ビジネスモデルの基本形とは?
http://blog.japan.cnet.com/watanabe/archives/002012.html
そこが知りたい!検索エンジンの裏側 第47回 「長いしっぽ」が世界に革命を起こす
http://internet.watch.impress.co.jp/www/column/kensaku/050304.htm

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