ナイロビの蜂

ナイロビの蜂〈上〉ナイロビの蜂〈上〉
ジョン ル・カレ John Le Carr´e 加賀山 卓朗

集英社 2003-12
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アフリカ諸国に対する医薬品供与の恐るべき実態を描き出したミステリー小説。英官僚と多国籍医薬品業界との生々しい癒着、それを告発し、制度の浄化を試みるNGOの奮闘などをリアルに描いた作品に仕上がっている。

医薬品業界とそれを取り巻くステークホルダーの実態については昔から噂が絶えないし、それを題材にした小説も数多くあるのだが、さらに官僚組織の実態や開発業界のジレンマなども織り交ぜた作品には今まで出会ったことがなかった。そういった意味では、緑の革命のような非常に根深い問題を扱う小説の「医薬品業界版」とでもいった感じか。

最後はハッピーエンドで終わらないので、読後感は決して良いとはいえないが、その分現実社会とのシンクロ感が増し、より一層読者に思慮を求める構造になっている。

協力隊員は「自分の活動が本当に途上国のためになっているのだろうか?」と葛藤をすることが多いのだが、本書の主人公ジャスティンやその妻テッサの姿を追うほどに、「黙って悩んでてもしょうがない」という気にさせられる。己を眼高手低だと嘆く前に、本書を一読して勇気をもらって欲しいと思う。