麻雀放浪記

麻雀放浪記(一) 青春編麻雀放浪記(一) 青春編
阿佐田 哲也

角川書店 2000
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マニラの隊員連絡所にて何か面白そうな本はないものかと物色していたところ、ふと「麻雀」の文字が目に入ってきた。「最近ぶってねーな」と思っていた矢先の出来事だったので、私はなんの迷いもなくこの本を手に取った。

麻雀小説という新しいジャンルの金字塔を打ち建て、今もなお他の追随を許さぬほどのカリスマ性をもった作品と言えば、この「麻雀放浪記」を置いて他にはない。とはいうものの、私がこの小説を読んだのはこれがはじめて。マガジンで連載されていた「哲也」をいつも読んでいたので、その存在はもちろん知っていたが、なぜかこれまで一度も読んだことがなかったのだ。

舞台は終戦直後の東京。生きるための手段として博打という世界を選んだ坊や哲と、それを取り巻くバイニン達。誰もが明日を生きることに精一杯だった時代に、「麻雀」の世界に希望を見出し全てを捧げたもの達の物語だ。

主人公の坊や哲と作者の阿佐田哲也(本名、色川武大)の人物像については色々とかぶるところがあり (阿佐田哲也の経歴についてはこちらが詳しい) 、彼の人生の軌跡と重ね合わせて読んでみると、また違った面白さを発見できる。

今では全自動卓が一般的になったので、「ツバメ返し」などで知られるイカサマ麻雀をリアルに目にする機会は少ないが、当時はイカサマを行うのが当然の世界だった。むしろ、玄人同士の高レベルなイカサマのやり取りは、下手な正統派麻雀を見ているよりは100倍面白いのではないかと思う。

現在は娯楽としての色合いが強くなった麻雀。しかしこの作品に出てくるバイニン達にとって、麻雀は仕事でこそあれ遊びではない。何しろ、明日飯が食えるかどうかがその一勝負にかかっているからだ。そして、その張り詰めた空気の中で切られる一打一打に集中して読むほどに、坊や哲の精神状況とうまくシンクロすることができ、まるで自分が親に満貫を振り込む可能性を持つ危険牌を握らされているような緊張感に浸ってしまう。

麻雀はその人の性格を映し出す鏡だとよく言われる。せっかちに早く上がることばかりを考えてぶつ人。役満をテンパっても顔色一つ変えない人。負けを背負い込むほどに機嫌が悪くなっていく人。

そして、麻雀の世界で見られる彼らの性格は、日常生活におけるそれとは大きく異なることが多い。例えば、普段は几帳面で石橋を叩いてわたるようなタイプの人でも、牌を握ったとたんに大胆不敵な面構えに変貌するなんてこともよくある話だ。

「あいつがこんな打ちかたするなんて!」。こんな発見があるから麻雀はやめられない。