もうみんな家に帰ろー!

4896250524もうみんな家に帰ろー!―26歳という写真家・一ノ瀬泰造
一ノ瀬 信子

窓社 2003-05
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久しぶりに一ノ瀬泰造に関する本を読んだ気がする。本書は比較的最近出版されたもので、泰造の実の母によって編集されている。泰造と両親との手紙のやり取りや、父親の影響を受けて写真の世界へと入っていった経緯などを読んでみると、泰造がごく普通の青年であったということを改めて実感させられる。

しかし、このごくごく普通の青年の人生が、今なお多くの若者の生き方に勇気と希望を与える存在となっている理由は、彼が信念を持ってジャーナリズムの本質を追求し続けたという姿勢にある。

諦めず、妥協せず、筋を通して、真摯に向き合う。言われてみれば当然のことだが、実際に行動に移すのは非常に難しいこれらの姿勢を、泰造は26年間という人生において貫き通した。

本書の題名である「もうみんな家に帰ろー!(テンオックネァ、タウプティヤ!)」という言葉は、国軍と共産軍がにらみ合いを続ける戦場のど真ん中で、泰造が声高に叫んだ言葉だそうだ。きっと彼は心の奥底からこの言葉を発したのだろう。

また、本書には写真も多く収められている。中でも泰造の死後、両親がカンボジアに赴いた際に、変わり果ててしまった息子の頭蓋骨を沼の水で丁寧に洗ってやるシーンなどはとても印象深い。

以下、泰造がカメラマンになって2年目に、母に対して得意気に語った「カメラマン道」

「撮影するのは二の次で先ず兵士の心を開かせること。そのためにはボクシングが一番。泥んこのスキンシップで互いに信頼感が芽生えてくる。カメラを持つのはそれからなんだよ。」