人権支援報告の持つ意味

米人権支援報告:脱北者の強制送還などで中国と北朝鮮批判 [MSN-Mainichi]

国務省は28日、世界各国での人権侵害などに対する米政府の取り組みをまとめた年次報告書「人権と民主主義の支援」(04〜05年版)を発表した。北朝鮮を脱出した住民が中国から送還され、強制妊娠中絶など過酷な取り扱いを受けている状況を批判し、両国に対する米政府の働きかけを記述している。
今回の「人権支援報告」は、問題の多い諸国に関する米政府の対応を報告するのが主目的で、2月に発表された、世界各国の人権状況についてまとめた「人権報告書」とは別ものである。

2月に発表された「人権報告書」では、日本の管理売春目的での女性の人身売買問題についても取り上げられており、フィリピンに対する興行ビザ発給制限問題も、ここから端を発している。(参考:2004年人身売買報告書(抜粋)

今回発表された「人権支援報告」では、中国について「依然として政治的、宗教的な団体を抑圧している」と指摘しており、また北朝鮮についても、「世界で最も抑圧的な諸国の一つ」「金正日(キムジョンイル)総書記の完全な独裁下にある軍事化社会」などとし、アメリカ側の人権問題に対する厳しい姿勢が読み取れる。

また、アメリカの一連の人権報告に対抗する形で、中国側も「2004年米国人権記録」と題した報告書を発表している。当報告書では、イラクでの米軍による虐殺を激しく非難するとともに、ブッシュ政権が自国での貧困や人種差別、犯罪の処理ができないなどと、アメリカを強く牽制する形となっている。ちなみに、アメリカが発表した報告書の中には、米軍によるイラク人虐待事件への言及はされていない。

アメリカの人権支援報告書は、米政府がいかにして世界中で人権問題に力を入れているかをまとめた、いわばプロパガンダ的なものだが、その真意は、関係各国に対して政治的・経済的な圧力を与えることにあるのは明白だ。

一般的に、この手の報告書は一国が独自に作成するに馴染む性質のものではないと考える。なぜなら、人権問題という、極めてナショナリズムと深く関係する事柄について、一国もしくは一人種の立場から作成された文書が、公正な内容であるはずがないからだ。

となると、ここで重要な役割を果たすべきは、国連人権委員会国連人権高等弁務官事務所であろう。国連が、世界の平和と経済・社会の発展のために協力することを誓った独立国が集まってできた組織である以上、世界の人権問題に対する調査・解決を図るという責務を負うのも国連であり、アメリカや中国などの独立国がどうこう主張する問題ではないと思う。

もちろん、国として人権問題に真摯に取り組むことは重要だし、その結果を報告書にするのも勝手だ。しかし、それが他国に対して人権問題とは別の側面で圧力を与える武器へと変化するのであれば、その存在意義そのものを否定せざるを得ない。

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