お客様

夕方家に戻ってきたら、玄関の前でお客様が待っていた。

っても、ご覧の通りの子猫。普段は見かけないので、どこかから迷い込んで来たのだろう。「お母さんはどこ」って聞いてみたが、「ミャー」と答えるばかりで、話が進まない。しょうがないので、家に上げて遊んでやることにした。

しばらく何も食べてないのか、げっそりと痩せていたので、日本の友人から送ってもらったチーズカマボコをやってみた。最初はおいしそうにむしゃむしゃ食べていたのだが、半分くらいでおなか一杯になったのか、遊び道具にし始めた。あぁ、なんてもったいない。それだけあれば、俺はビール一杯飲めるよ。。また、子猫だからミルクも飲むだろうと思って、わざわざサリサリストアで買ってきたのだが、これは一口も手をつけなかった。全く礼儀のなってないやつだ。

しばらくひざの上でじゃれさせていたら、おなかも膨れて落ち着いたのか、スヤスヤと眠りだした。こうなるとこっちは身動きが取れない。起こすのもかわいそうなので、しばらくそのまま寝かしてやることにした。が、10分くらいで足がしびれてきたので、抱きかかえて床に追いやると、かなり不満そうに「ミャーミャー」騒ぐ。勝手にベッド使っていいから、一人で寝てくれって感じだ。

自分もおなかがすいてたので、晩飯を作ることにした。その間はほったらかし。お客様だからといって、そこまで気を使って接待をするたちでもないのでね。奴もそれを理解したらしく、勝手に地下室に行って遊んでた。パスタを茹でている間暇だったので、地下室から呼び戻して、しばし目ヤニと鼻クソの掃除。これで美人になった。

飯も食い終わって、日も沈み始めたので、「そろそろ家にお帰り」と外に追いやった。しかし、すぐに家の中に戻ってくる。3回くらいそれを繰り返したのち、やっとドアを閉めることが出来た。しかし、大変なのはその後だった。ドアの前で「ミャー!ミャー!」と、ずーっとなき続けてるのだ。

あぁ、分かってるさ。帰るところがないんだろう?けどね、ここもお前のおうちじゃないんだよ。うちの子にしてやりたい気持ちは山々だけど、俺は責任持ってお前を育ててやることは出来ないよ。。。

しばらくドアの前で泣き声を聞きながら、「うちで飼うかなぁ・・・」とか「いや、家をあけることが多いお前には無理だよ」とか、一人で葛藤している自分に気付く。

すると、突然なき声が聞こえなくなったではないか。どこへ行ったのだろうか?っても、どこも行くとこないだろうに。。。色々考えながらも、なんとなくやつのその後が気になったので、ドアを開けて辺りを見回してみた。

そしたら2軒ほど隣の家の子供が、お菓子をあげながら一緒に遊んでいるではないか。あぁ、よかった。ここなら、こいつは路上でも飢え死にしないでやっていけるだろう。しかし、やつに家がないというのは杞憂で、本当は帰るところもお母さんもいるのかもしれない。ただ、やつの目が寂しそうに見えたから、勝手に俺がそう思っただけなのかも。本当のところはどうなのかを、確かめる術は持たないが。。

たった2時間くらいのお客様のクセに、なんとも胸の詰まる思いをさせやがる。もしも、あと1時間くらい一緒にいたとしたら、きっと外に追い出すなんて出来なくなってたんだろう・・・。

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