仕事中にビリヤードをする人々

ビリヤードは、フィリピン庶民の娯楽としてとても大きな存在だ。

フィリピンでは、小さな子供からよぼよぼのお爺さんまで、色々な人がビリヤードをしている。こっちはビリヤード場なんて気取った場所はあまりなく、サリサリストア(雑貨屋)の裏手や道端に台がドーンと置いてあるだけというのが一般的だ。

フィリピン人とビリヤードをする場合は、場代を賭けて勝負することが多い。負けたほうがゲーム代を払うというだけなので、ギャンブル性はあまりないが、さすがみんな小さな頃から鍛えてるだけあって、メチャメチャうまい。しかも、曲がったキューや、明らかに傾いた台で勝負することに慣れているので、どんな場所でもすぐに適応して微調整してくるのだ。

実は先週末サーフィンに行った際、自分は足を怪我してしまって、昼からずっとビリヤードの練習をしていた。その時に、私が一人でひたすら練習している様子をずーっと見ているフィリピン人がいた。ホテルのガードマンだ。

彼はしばらく俺の練習の様子を眺めていたが、あまりの下手っぷりにとうとう業を煮やしたらしく、「違うだろ、こうだ!」とキューを奪い取り、頼んでも無いのに勝手に指導をはじめる。そして、「勝負するぞ」と一言。こっちの都合は全く無視である。「あんたが遊んでたら、誰がガードするんだ?」と思いながらも、取り合えず応戦。

すると、超ラッキーなことに勝ってしまったではないか。10試合対戦したら、恐らく1回くらいしか勝てない相手である。ツイているとしか言いようがない。

しかし、大変なのはその後だった。私が偶然負かせた相手は、実はなかなかのつわものだったらしく、次から次へと対戦を挑まれる羽目になったのだ。まずは、電気工事の為にたまたま来ていたオヤジ。「早く電球取り替えろよ!」と思いながらも、取り合えず応戦。これまた偶然勝ってしまった。

続いて対戦を挑んできたのは、荷物運搬途中のトラックのドライバー。「早く荷物運べよ!」と思いながらも、こちらも取り合えず応戦。そして、2度あることは3度あるで、またまた勝ってしまった。

この他にも、ホテルの調理場のオヤジや旅行客など、何人か対戦を挑まれたが、かれこれ3時間くらいビリヤードをやっててクタクタになっていた為、丁重に断った。「勝ち逃げか?」とか言われたが、正直「勝ち逃げ」したい気持ち満々だったので、アッサリ認めといた。取り合えず「日本人はみんなビリヤードがうまい」という、少々誤った印象を植え付けることに成功したので、大満足である。

それにしても、この日対戦した相手は全て「勤務中」の人々ではないか・・・。働けよ!と思うが、ビリヤードを目の前にしたら仕事が手につかなくなるのだろう。まぁ、その気持ちは分からんでもない。自分もサラリーマン時代に、客先帰りにカラオケに行ったりしてたから。

根を詰めて仕事するよりも、適度な息抜きをしながら働くフィリピン人のワークスタイルは、それはそれでいい文化だと思う。キチキチのスケジュールで動いていては、いい仕事も出来ないだろうし。