告知

医者に「水虫」と告知された。

生まれてこのかた、水虫などとは縁のない生活を送っていた。しかし、フィリピンの豊富な湿気と汗ばむ気温に恵まれた結果、起こるべくして起こった事態とも言えよう。

最初は足の指間に小さな水泡がいくつか出来ただけで、痛みも痒みもなかったのが、日がたつにつれ範囲が広がり、水泡は膿泡に変化していった。そのうち足の裏全体に広がり、歩行困難に・・・。仕舞には手にもブツブツと。それを見た自分もブツブツと文句を垂れながらも、医療調整員の進めで皮膚科にかかることになった。

内心、「これって水虫?!」と思いながらも、それを認めたくなかったので、コンピュータ隊員らしく、インターネットであらゆる症状を検索し、自己診断の結果「掌せき膿泡症」と勝手に判断。この病名を英訳して、医者に持っていき、「僕はこの病気だと思います」と言うつもりであった。

そしていざ病院へ。診察台に乗せられて、しばし待つこと5分。女の先生が部屋に入ってきて、足を見るや否や、

「あ、これ水虫だね。」

おいおい君、触診とか顕微鏡検査とか、先にやることがあるじゃないか。一目見ただけで「水虫」で片付けるなんて・・・。しかも、出会ってまだ10秒しか経っていないのに、人の足を見て「水虫」と決め付けるとは、失礼にもほどがある。俺も負けてはいられないと、「先生、俺は掌せき膿泡症だと思います。」と言ってみた。すると、

「全然違うよ。絶対に水虫」

言ったな。今「絶対」って言ったな。俺は悔しくなり、「じゃあ、顕微鏡検査してみて下さいよ。」と、なぜか喧嘩ごしに。白癬菌が出たら医者の勝ち、違ったら俺の勝ち。なんだかよく分からんが、勝負の様相を呈してきた。なぜここまで自分が水虫と診断されるのを拒否するのかもわからないが、なぜだか悔しいのだ。

しかし、医者は、「今日のあなたの足はウェッティー過ぎるから、今度来たときに検査するね」とはぐらかされてしまった。「取り合えず水虫の薬出しとくから」と言われたが、誤診だったらどうするのだ!今でも歩くのが精一杯なのに、これ以上酷くなったら責任取ってもらうからな!こいつ、もしかすると勝負を避けてやがるな?と、色々なことを思いながらも、医者と喧嘩をするのは得策ではないとの結論に至り、その日はおとなしく帰宅することに。

それから一週間後の今日、とうとう勝負の日が来た。今日の昼には俺が水虫なのか否か、白黒はっきりする。

そしていざ診察台へのぼり、メスで皮膚を切り取られる。「これから検査しますので」といわれ、待つこと10分。「検査結果が出たので、先生から説明があるそうです」との声がかかった。

先生のところに行き、椅子に腰掛けると、彼女はなぜだか勝ち誇った表情で、

「やっぱり水虫でしたよ。」

完全敗北である。しかし、彼女の勝ち誇った表情と「やっぱり」という言葉が、敵対心むき出しな感じで、私の心をイラつかせた。なんとも大人気ない「告知」の仕方だろう。俺は自分が水虫であるということよりも、この医者の患者を打ちのめす態度に落胆してしまった。確かに勝負を仕掛けたのはこっちだ、それにしても、告知の際にはもっと医者らしい言い方があるだろう。。。

いずれにせよ、私と水虫との共同生活は始まってしまったわけで、この国には冬は来ないから水虫菌の活動が治まることもないわけで、なんとも切ない気持ちになっている今日この頃です。